成長の先にあった落とし穴。そして復活
インターネットを使ったライブ中継を行う合同会社ロケッツ。代表の吉富和博氏によると、チラシやCG、映像制作を経て、USTREAMやニコニコ生放送、YouTube Liveなどでの配信代行サービスを中心に、イベント中継やセミナー、シンポジウムのライブ中継、映像制作などを行う。吉富氏が映像の世界に飛び込んだきっかけは、イベント会場で投影する動画の挿入用CG映像の制作に携わっている時だった。
「イベント会場にCG映像を納品に行くと、偶然イベント撮影の準備をしていました。そこで『映像に使うCG映像と一緒に映像撮影も請け負えば、クライアントが楽になるんじゃないか』とひらめいたんです」
そこで映像制作会社で1年間アルバイトして撮影業務を開始すると、すぐに法人化するまでに事業は成長。しかし、あるアーティストのコンサート映像を撮影・制作する仕事で、納品直後にクライアントが倒産、さらに、取引先数社が次々と倒産し、入ってくるはずのお金が入ってこなくなり、外注先への支払を含めた運転資金が不足してしまった。
「弁護士には倒産をすすめられましたが、倒産せずに返済する道を選びました。私の事を信じて協力してくれた外注先へ迷惑をかけたくなかったし、これまで築いてきた信用を失いたくなかった。苦しい道を選んででも何とかしようと思ったんです」
借金を抱えて人間不信に陥った吉富氏は、ある日突然全身の毛が抜けてしまう症状に襲われる。
「医師からは、身体に異常はなく強いストレスが発症の原因、と説明されました。借金と脱毛で、さすがの私も引きこもり状態になりましたね。でもある時『もう開き直るしかないやろ』と思ったんです。毛はないけど、借金だけはありますしね。その瞬間、散髪屋に走って頭をスキンヘッドにし、そのことをTwitterでツイートしたんです」
このツイートこそ、吉富氏復活の瞬間だった。
インターネットライブ中継との出会いが、合同会社ロケッツを生んだ
復活の狼煙を上げた吉富氏のもとには、事情を知った多くの取引先から仕事の依頼が舞い込みはじめた。
「本当に嬉しくて感謝しましたね。おかげで映像制作をしながら、借金を少しずつお返しできたんですから」
そんな時、インターネットライブ中継USTREAMが登場した。吉富氏は、気軽にインターネットで生中継が配信できるこのサービスに、底知れぬ可能性を感じた。
「これしかないと思いました。しかし、まだ登場したばかりで誰も知らない。そこで、無料でUSTREAMの中継を手伝い始めたんです。当然大赤字ですが、とにかく実績を作ろうと。年間100本以上の撮影をすべて無料でやりました」
こうして配信の様子をfacebookやTwitterで発信していると、いつの間にか有料でのライブ映像配信に関する問い合わせが増えはじめた。
「ホームページを立ち上げて費用を設定すると、ほどなくビジネスとして成立するようになったんです」
合同会社設立のきっかけは、インターネットを使ったライブ中継が軌道に乗り始める前、FirstStepスタッフと出会ったことだった。
「インターネットライブ中継の多くが、企業との直取引だったことが法人化の理由です。必要性は感じていましたが、まだまだ借金返済中でしたし、設立費用が掛かるので二の足を踏んでいました。そんな時、FirstStepさんから会社設立について様々なアドバイスをいただいたり、親身になって相談に乗っていただいたんです。それで合同会社ロケッツの設立を決意しました」
映像を使って、面白いことに挑戦し続けたい
波瀾万丈の人生を歩んできた吉富氏に、仕事で最も大切にしていることをたずねた。
「自分が面白いと思うことにチャレンジし続けることですね。そこは採算度外視。また、仕事では決して『できません』と言わないことも信条。未経験の仕事でも私を信用して依頼してくださるお仕事は引き受けます。最終的に私じゃできないことなら、できる人に協力してもらいながら何とかします」
インターネットライブ中継という仕事は、自分が撮影した映像を通じて人々が喜んだり、学んだりする反応をリアルタイムで感じられる点が魅力と語る吉富氏。これから起業しようとする人へのアドバイスは『何のために起業するのか、起業の『動機』しっかりと持ち続ける』ということだった。
「『動機』そのものは『お金儲けのため』でも良いんですよ。なにかひとつ絶対に譲れないものを持って起業しないとうまくいかない。私も『面白いことをやりたい。映像ならそれが自分にもできる』という『動機』があったから、この仕事を離れなかったんだと思います」
今後の展開も、まさに『起業の軸』をさらに太くすることを狙う。
「この世界は技術革新のスピードが速いのが特徴。技術革新に対応しながら『面白いこと』を突き詰めていきたい。映像にこだわっているつもりはないけど、私は映像しかできない人間ですから」
夢は東京オリンピックで、テレビではなくインターネットの競技中継に携わりたいと語る吉富氏。大きな夢に向かってさらなる躍進を目指す。
担当者より
吉富社長は、笑顔の素敵なとてもあたたかい人です。
取引先が倒産して借金を抱えた時も、周囲に迷惑をかけないよう苦しくても借金返済の道を選ぶような方です。
吉富社長だからこそ、ピンチの時にたくさんの人が力を貸してくれるのだと思います。
また、「自分が面白いと思うことにチャレンジする」という信念をきちんと持っておられるので、面白いと思った事にはどんどんチャレンジされています。ロケッツの今後の展開がとても楽しみです。
そんな素敵な吉富社長を微量ではありますが会計の面からサポートしていきたいです。
今後とも、よろしくお願いいたします。 (井阪 彩)